これまで、国内でのCOVID-19による死亡者は1日あたりおよそ100人を超えると国民の意識の変化や政府の対応に伴い減少に転じていた。しかしオミクロン株の流行以降、1日当たりの死亡者が300人や500人であっても人の行動が大きく変わることはない。すなわち、東日本大震災を超える人が短期間に亡くなっているにもかかわらず、日本はそれに無関心なのである。WHOのテドロス・アダノム事務局長はCOVID-19による死亡者について、”We must remember that these are people, not numbers.”と述べているが、その’number’にさえ関心を持っていないのが今の日本であり、それでいいのであろうか。
●最後に
今回のクロストークミーディングでは、「コロナの死」というテーマについて押谷先生はデータの面から、木村先生は各文化に固有のストーリーの面から死を扱っていた。その点について、2023年1月12日にサイエンス誌に公開された論説(“‘Storylistening’ in the science policy ecosystem”)では、サイエンスだけでは変えられない問題が多数ある中で、データのようなサイエンティフィックなエビデンスと個々の体験談のようなナラティブなエビデンスを総合させるという学際的な試みが、気候変動や感染症問題などこれからの問題に対するよりよい政策形成につながると述べられていた。それぞれ何ができるのか、新しい知のあり方とは何か、そして望ましい社会のあり方とはなにかをお互いに考えるとこのような学際的な試みも進みやすいだろう。そして、パンデミックによる問題は決して新しいものではなく今まで存在していた問題が顕在化したにすぎないと考えることもでき、この問題を真剣に考え前に進むためにもより学際的な試みが求められる。