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パンデミック流行期にはすでに市場に流通していたNA阻害薬であるオセルタミビル、ザナミビルが主に使用された。本邦では2010-2011シーズンから新たにラニナミビルとペラミビルがインフルエンザ治療薬として承認され、新型インフルエンザに対する治療に用いられたが治療効果のエビデンスはまだ少ない。 Richard らはパンデミック期に家族内の新型インフルエンザの感染とNA阻害薬の使用の関係を検討した結果、最初の感染者が発症から48時間以内に抗ウイルス薬による治療を受けた群では受けない群と比較して、家族内における二次感染が起こる率が0.45倍に低下し、家族が予防的にNA阻害薬を投与されていた群では家族内における二次感染が起こる率が0.09倍に低下したと報告している(※16)。同様の報告は他にもあり(※17)、これらの研究結果は、抗インフルエンザ薬の投与が家族内におけるインフルエンザ感染伝播を抑制する可能性を支持している。しかし現時点では、抗インフルエンザ薬が地域やコミュニティにおけるインフルエンザ感染伝播に与える影響について、少なくとも確立したエビデンスはない ワクチン効果には対照化研究(controlled trial)によって得られる効果(efficacy)と観察研究によって得られるワクチンの有効性(effectiveness)という2つの評価がある(※18)。対照化研究によるefficacyの評価は無作為割り付けが倫理的な問題となるため研究を行うこと自体が難しい。このため、ワクチンの効果を検討した研究はeffectivenessを検討したものが大半である。さらには、流行株に対応してワクチン株が変更されることと、シーズンにより流行する型・亜型が異なることから、毎年の評価が必要であり、ある研究結果が毎年のワクチン効果の評価に有効とは限らない。特に、新型インフルエンザが出現した2009-2010シーズンは、ワクチンが製造され接種されるまでの間に流行のピークを迎えたため、ワクチン接種時期と流行時期が前後しており正確なワクチン効果の評価が難しく、報告も限られている。NishiuraらはH1N1(2009)のワクチン接種が家族内における小児の二次伝播を有意に減少させたことを明らかにした(※19)。また、Hardelidらの報告(※20)によればワクチン接種者85人中4人(4.7%)のH1N1(2009)罹患と比較してワクチン非接種者3067人中870人(28.4%)の罹患は有意に多く、パンデミックにおけるワクチン接種の有効性を示す研究として公表されている。しかし、ワクチン接種者の数があまりにも少ないため、ワクチン効果を適切に評価する研究とは言えず、さらなる大規模研究が必要である。一方で、ワクチン接種が地域内・コミュニティ内でのインフルエンザの伝播抑制に与える影響については、確立したエビデンスはなく、今後の検討課題である。
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