新型インフルエンザ対策に対するエビデンスのまとめ Review of pandemic influenza preparedness and control measures 厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」

水際対策

2.航空機内での感染リスク

Moserらの報告によると、出発の遅れのため、換気システムが停止した機内に数時間いた乗客の72%が1人の患者からのインフルエンザに感染した(※10)
Bakerらによると、北米からニュージーランドまで長距離ジャンボ機の機内で24名の学生団体のうち9名が新型インフルエンザを発症した。その周囲2列以内の57名の一般乗客を観察したところ3.5%に発症がみられた。空港から離れてしまうと追跡は困難で対応は遅れがちであった(※6)
Guptaらの飛沫の放出をシミュレーションし、機内での飛沫の広がりを測定した研究において、30秒以内に1列目に広がり、4分後には前後3列まで広がった。機内の空調システムにより、飛沫は1分後には48%、2分後には32%、3分後には20%、4分後には12%減少した(※11)
新型インフルエンザによるわが国初の海外感染事例において、感染者の前後左右3 列と対応した客室乗務員が停留対象者となった(48人)。しかし、航空機内で近くに座っていただけで停留対象となった人の中からは,発症した人はいなかった(※12)
Marsdenの報告によると、1999年に、満席の75人乗りの航空機内で、3時間20分のフライト時間で、20人が感染した。そのうち9人は有症の患者と前後左右3席以内に座っていた。他の場所や座席間の移動での接触があった者も複数あった(※13)
Foxwellらは、2009年5月にインフルエンザ(H1N1)2009が発生した2つのフライトの乗客における調査を行い、インフルエンザ様疾患の患者の席から2列以内に座っていた場合、そのエリア内における発病率は3.6%増大し、2シート以内に座った場合は7.7%増大したと報告している(※14)
Wagnerらは、4つのコンパートメントに分けた機内における空気感染モデルを作成して検討した結果、フライト中の感染伝播は搭乗時間および搭乗率のに比例して増大すると報告している(※15)


3.水際対策の開始・縮小

オーストラリアでは、DELAY phase(国内に感染者が無く、海外で小規模集団発生が見られる段階)を水際対策開始、SUSTAIN phase(オーストラリアにパンデミックウイルスが定着し、コミュニティに蔓延している段階)を水際対策縮小の目安としている。また、仮にオーストラリアが、パンデミックの初期発生国の一つになるのであれば、罹患者の出国を防止するために、WHOがIHRのもとでexit-screeningを求める可能性について言及している(※16)
シンガポールでは、水際対策の効果を最大にするためには、WHOの声明やウイルスに関する情報がないような早い段階から開始しなければならないとしている。地域 outbreakが発生したら(海外からウイルスが持ち込まれる場合より国内感染のインパクトのほうが大きくなったら)、水際対策を縮小に転じるとしている(※17)
カナダでは、Canadian Phase 4.1 and5.1(新型ウイルスの散発例があり、限られたヒト―ヒト感染が見られる。カナダ国内での集団発生はなく、多国では集団発生が見られる)での対応に検疫に関する記述が見られる。縮小の目安はPhase 6.1 and 6.2(パンデミックウイルスが国内で検出されている)(※18)
ニュージーランドでは、Keep it Out phase(海外の二つ以上の国や地域で新しいインフルエンザウイルスの継続的なヒト―ヒト感染がある段階)を水際対策開始の目安としている。Stamp it Out phase(ニュージーランド国内で新しいインフルエンザウイルスまたはパンデミックウイルスが見つかった段階)を水際対策縮小の目安としている(※19)
英国では、これまでの疫学研究や感染症モデルの結果から、流行遅延の効果が期待できる期間は90%の実施率で2−3日、99%の実施率でせいぜい2か月ということを考えて、水際対策を実施しない。ただし、WHOやECDCなどから実施を要請されれば行うこともある。開始(検討)はWHOのフェーズ5以降としている(※20)
米国では、パンデミックが国外で起こればアメリカに入国する旅行者にentry-screeningを行う可能性があり、国内で起こればアメリカから出国する旅行者にexit-screeningを行う可能性や国内の移動を制限する可能性に言及している。いったんパンデミックが広がればexit-screeningの方が有効であると考えているが、それ以上に国内での感染伝播が進み、国内での感染伝播が広がればこれらの戦略を中止するとした(※21)


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本ウェブサイトの構築は、厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」(新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究)の研究活動の一環として行った。

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