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発症から早い段階でのNA阻害薬の投与が重症化や死亡率の減少に寄与したという報告があるがその因果関係は明らかではない。 |
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NA阻害薬の早期投与により家族内の二次感染率の低下が示されているがより大きな地域レベルの伝播に対する影響については不明である。 |
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パンデミック(H1N1)2009ワクチンによる家族内の二次感染率の低下が示されているがより大きな地域レベルの伝播に対する影響については不明である。 |
目次
> ノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)
> NA阻害薬の種類と効果
> 感染伝播に与える影響
> インフルエンザワクチン
2009年に発生し世界的に流行・蔓延した新型インフルエンザ(H1N1(2009))の流行では、基礎疾患やリスクの有無に関わらず健康であっても重症化する例が青壮年層にも認められ、楽観視できない。ここでは、H1N1(2009)に対する抗インフルエンザ薬とワクチンの効果について、感染伝播抑制の観点をまじえて公表されている範囲でエビデンスをまとめる。
抗インフルエンザ薬
ノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)
新型インフルエンザの原因となったH1N1(2009)ウイルスはA型インフルエンザの一つの亜型でありノイラミニダーゼ阻害役(NA阻害薬)による治療が第一選択とされている。しかし、H1N1(2009)ウイルス感染に対するNA阻害薬の効果に関する総説やメタ解析は今までのところ発表されていない。後ろ向き観察研究では複数の知見が蓄積されつつあり、NA阻害薬を早期投与することでICU入院を有意に減少させたという報告(※1, ※2)や、同様にNA阻害薬を早期投与することで有意に死亡を減少させたという報告(※2,※3,※4,※5)がある。比較的軽症例での検討では、若年成人に対するオセルタミビルの投与がX線で確認できる肺炎の発症を減少させ、さらには、発症から2日以内の投与が有熱期間を短縮させたという研究がある(※6)。このように、限られた数の観察研究であるが、H1N1(2009)に対するNA阻害薬の投与が重症化・死亡の減少に対して効果的であったことを示している。
強調すべきは、単にNA阻害薬の投与が効果的としているのではなく、発症から早い段階での投与が効果的であるとしている点で、WHOと米国疾病制御センターは新型インフルエンザ感染(または感染が強く疑われる)例で、すでに重症である場合と重症化の危険がある場合にはすぐにNA阻害薬を投与することを強く勧めている(※7, ※8)。米国感染症学会でも重症化の危険がある場合、発症から48時間以内のNA阻害薬投与を推奨しており(※9)、H1N1(2009)感染者(または疑い例)において、重症化の可能性がある場合NA阻害薬をできるだけ早い段階で投与することについては一致した見解となっている。本邦では、NA阻害薬の備蓄量が十分であることと、基礎疾患やリスクのない健康人でも急激に悪化する可能性があることからH1N1(2009)感染者(または疑い例)に対しては全例、NA阻害薬を投与することを日本感染症学会が推奨している(※10, ※11)。また、パンデミック期において世界各国に比べて本邦におけるH1N1(2009)による重症化例・死亡例が少なかったのは事実であり、発症早期にNA阻害薬の投与が可能であったこととの関連を指摘した報告(※12)もあるが、実際の因果関係は不明である。
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本ウェブサイトの構築は、厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」(新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究)の研究活動の一環として行った。
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