新型インフルエンザ対策に対するエビデンスのまとめ Review of pandemic influenza preparedness and control measures 厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」

抗ウイルス薬・ワクチン

NA阻害薬の種類と効果

パンデミック流行期にはすでに市場に流通していたNA阻害薬であるオセルタミビル、ザナミビルが主に使用された。本邦では2010-2011シーズンから新たにラニナミビルとペラミビルがインフルエンザ治療薬として承認され、新型インフルエンザに対する治療に用いられたが治療効果のエビデンスはまだ少ない。
オセルタミビルは世界的に最も多く流通しているNA阻害薬であり、パンデミック期においても、前項で示した通りH1N1(2009)感染治療への有効性が報告されている。しかし、薬剤耐性ウイルスの報告もあり懸念事項となっている。2007-2008シーズンにオセルタミビル耐性の季節性H1N1ウイルス(Aソ連型)が大流行したため新型インフルエンザのオセルタミビル耐性化が懸念された。しかし、現在までのところ、幸いオセルタミビル耐性のH1N1(2009)ウイルスは散発的な報告のみで大流行にはなっていない。今後も耐性ウイルスの監視を継続する必要がある。ザナミビルは吸入薬であり、吸入が難しい人工呼吸器使用例などの重症例での使用はすすめられない。また、小児で確実な吸入が困難の場合は、コンプライアンスが問題となる可能性がある。当教室におけるH1N1(2009)感染者241名の検討ではオセルタミビルとザナミビルの有熱期間に有意な差はなかった。一方、オセルタミビルで有意に有熱時間が短かったとする検討結果も公表されているが、理由は明確ではないとしている(※13)。ペラミビルは現在市販されているNA阻害薬の中で唯一の静脈注射薬であり、人工呼吸器使用例などの重症例や嘔吐・衰弱により経口摂取・内服が困難な場合に有用である可能性がある。小児における検討ではペラミビルのH1N1(2009)に対する有効性を示した研究がある(※14)。ラニナミビルは単回吸入で治療が終了するため吸入手技が確実である場合、高いコンプライアンスを得られる。しかし、確実な吸入ができない小児では本来の効果が得られない可能性がある。ラニナミビルのH1N1(2009)に対する効果を検討した研究ではオセルタミビル・ザナミビルと同等の効果を示したことが報告された(※15)


感染伝播に与える影響

Richard らはパンデミック期に家族内の新型インフルエンザの感染とNA阻害薬の使用の関係を検討した結果、最初の感染者が発症から48時間以内に抗ウイルス薬による治療を受けた群では受けない群と比較して、家族内における二次感染が起こる率が0.45倍に低下し、家族が予防的にNA阻害薬を投与されていた群では家族内における二次感染が起こる率が0.09倍に低下したと報告している(※16)。同様の報告は他にもあり(※17)、これらの研究結果は、抗インフルエンザ薬の投与が家族内におけるインフルエンザ感染伝播を抑制する可能性を支持している。しかし現時点では、抗インフルエンザ薬が地域やコミュニティにおけるインフルエンザ感染伝播に与える影響について、少なくとも確立したエビデンスはない


インフルエンザワクチン

ワクチン効果には対照化研究(controlled trial)によって得られる効果(efficacy)と観察研究によって得られるワクチンの有効性(effectiveness)という2つの評価がある(※18)。対照化研究によるefficacyの評価は無作為割り付けが倫理的な問題となるため研究を行うこと自体が難しい。このため、ワクチンの効果を検討した研究はeffectivenessを検討したものが大半である。さらには、流行株に対応してワクチン株が変更されることと、シーズンにより流行する型・亜型が異なることから、毎年の評価が必要であり、ある研究結果が毎年のワクチン効果の評価に有効とは限らない。特に、新型インフルエンザが出現した2009-2010シーズンは、ワクチンが製造され接種されるまでの間に流行のピークを迎えたため、ワクチン接種時期と流行時期が前後しており正確なワクチン効果の評価が難しく、報告も限られている。NishiuraらはH1N1(2009)のワクチン接種が家族内における小児の二次伝播を有意に減少させたことを明らかにした(※19)。また、Hardelidらの報告(※20)によればワクチン接種者85人中4人(4.7%)のH1N1(2009)罹患と比較してワクチン非接種者3067人中870人(28.4%)の罹患は有意に多く、パンデミックにおけるワクチン接種の有効性を示す研究として公表されている。しかし、ワクチン接種者の数があまりにも少ないため、ワクチン効果を適切に評価する研究とは言えず、さらなる大規模研究が必要である。一方で、ワクチン接種が地域内・コミュニティ内でのインフルエンザの伝播抑制に与える影響については、確立したエビデンスはなく、今後の検討課題である。


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本ウェブサイトの構築は、厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」(新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究)の研究活動の一環として行った。

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