新型インフルエンザ対策に対するエビデンスのまとめ Review of pandemic influenza preparedness and control measures 厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」

インフルエンザの伝播経路

2) 感染者が感染性を持つ時期

インフルエンザに感染した人が他の人に感染させる感染性をいつからいつまでの時点で持つのかということも対策を考える上では非常に重要である。しかしインフルエンザウイルスの感染性に関しても十分にはわかっていない。感染性に関するデータとして存在するのはどの時点で感染者からウイルスの排出(Shedding)が見られるかというものであり、必ずしもウイルスの排出が見られることが感染性を示すことではないことに注意する必要がある。健康な成人では発症の24−48時間前からウイルスが検出され、ウイルスの排出量のピークは発症後24−72時間後に見られ、発症後5日まで続くとされている(※3)。実験的に健康成人にウイルスを感染させた場合のウイルス排出パターンを検討した研究のレビューをしたMeta-analysisの結果が発表されている(※20)。このMata-analysisの結果によると、インフルエンザウイルスの排出はウイルス接種後半日から1日で増加し、接種後2日目でピークを迎えるとしている。また平均排出期間は4.8日であった。しかしこの結果は健康な成人で通常の季節性インフルエンザを用いて行なった研究の結果であり、この結果がそのままパンデミックインフルエンザにも当てはまらない可能性もある。
これに対し小児ではウイルス排出は早く始まり遅く終わることが示されている(※3,※21)。ウイルス排出のピークは24−72時間で成人と変わらないが、ウイルスの排出は通常発症後7−8日まで続き、21日まで排出が見られたとする記録もある(※3)。小児で季節性インフルエンザ感染の際のウイルス排出期間が長い一つの理由として、小児は成人と違って免疫を持たない初感染である場合が多いということがある。新型インフルエンザの場合は小児だけでなく、成人も含めてほとんど全ての人が免疫を持っていないために成人でも季節性インフルエンザにおける小児のように排出期間が長くなる可能性はある。


3) 無症候感染の有無

感染していながら症状のない人が感染性を持つかどうかも対策を考える上では非常に重要となる。無症状の人も感染性があるということになれば、症状のある人への隔離や出勤の停止だけでは感染拡大を防げないということになってしまう。このため、感染症がコントロール可能性であるかどうかということを考える上で、潜伏期間内に感染性があるかどうかということは大きなファクターであるとされている(※22)。無症候感染(Asymptomaic Transmission)が起こる場合として想定されているのは、感染して症状が出現するまでの時期、すなわち潜伏期間の感染性と、無症候感染(Asymptomatic Infection)、つまり感染しても症状のない人が感染性を持つかどうかということである。インフルエンザの場合、季節性インフルエンザも新型インフルエンザもある一定の割合で無症候感染が起こると考えられている。前述のように発症前の潜伏期間にウイルス排出が見られることは示されているが、症状のない感染者からもウイルスが排出されていることもわかっている(※23,※24)。しかしここでもウイルスの排出があるということが、必ずしも感染性があるということではない。実際に潜伏期間に感染が起きていることを示唆するデータは非常に限られている(※3)。ウイルス排出は症状の重症度と強く相関するというデータ(※25)や、無症候感染者ではウイルス排出のレベルが非常に低いとするデータもあり(※26)、無症候感染者が感染性を持つとしても症状のある感染者に比べればかなり感染性はそれほど高くないと考えられる。通常インフルエンザ感染は飛沫感染・空気感染・接触感染いずれの場合にも感染者が咳・くしゃみなどを通してウイルスを周囲にまき散らすことが他の人へ感染を広げる条件となっている。ウイルス排出があるとしても咳・くしゃみなどの症状を持たない状態で無症候性感染が起こる可能性は低いとする意見もある(※27)
結論としては、明らかに高い感染性を持つと考えられるのは発症初期の有症者である。潜伏期間内や症状が軽快した後、あるいは無症候感染者にもウイルス排出が見られる場合もあるがこのような場合での感染性は発症初期の有症者に比べればはるかに低いと考えられる。


4) インフルエンザ(H1N1)2009における集団への感染力パラメータの評価

インフルエンザ(H1N1)2009の人口集団にたいする感染性については流行の早い時期から多くの報告がある。とくに流行の時間的な拡大とその拡大する力を表す指標である発症間隔(serial interval、SI)と再生産係数(reproduction number、R)についてはすでにまとめられている(※28)。平均発症間隔は家族などの濃厚接触者間での研究では2.5−4.4日の範囲で報告されている。最大値の4.4日は3つの家族で観察された5つの発症間隔の平均によって求められている(※29)。流行曲線に対するモデルフィットによる研究でも1.9−4.4日と報告されており、標準的な平均SIは3日以内と考えられる。
再生産係数は算出方法や場所などにより1.1から3.3と大きく変化している。最大値の3.3は学校における集団発生に対して算出されたものである(※30)。このように特定の集団における算出を除くと、標準的な再生産係数は1.5前後であると考えられる。この数字は、1968年のものとほぼ同等であり、1957年および1918年のものよりも小さいと考えられる(※28)
インフルエンザ(H1N1)2009においてはこれらのパラメータが、流行の初期から算出・評価がほぼリアルタイムでなされた(※31)。これらのパラメータの評価により、先に述べた感染症も出るなどを利用したシナリオ分析が可能となり、対策にも有効であると考えられる。


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本ウェブサイトの構築は、厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」(新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究)の研究活動の一環として行った。

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