新型インフルエンザ対策に対するエビデンスのまとめ Review of pandemic influenza preparedness and control measures 厚生労働科学研究補助金「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」

個人防御

3.マスク着用単独の効果を検討した研究

 マスクの着用単独についての介入研究は3つの論文があった。

1)感染者がマスク装着
 Cariniら(※13)は感染者がマスクを装着することにより感染をどの程度抑えるかについてクラスターランダム化比較試験を2008年から2009年のインフルエンザシーズンにフランスの3つの地域で行った。参加者は期間中に医療機関を訪問し、迅速診断テストで陽性となり、48時間症状が続いている人とした。マスクの着用5日間をする群と装着しない群に割り付けた。105の家庭306人が参加した。介入群のマスクの装着は遵守されていた。インフルエンザ様症状を呈したのは、介入群で25/158(15.8%)、コントロール群で24/148(16.2%)であり有意な差は認めなかった。本研究ではサンプルサイズが不足していたため、十分なパワーが得られなかった可能性がある。

2)感染者と同居家族のマスク装着
 MacIntyreら(※14)は、2006年から2007年の冬のシーズン2回にオーストラリアのシドニーにおいてクラスターランダム化比較試験を実施した。対象は、16歳以上の健康な成人が同居している家族で子供が発熱と呼吸器症状を呈している家庭とした。対照群、サージカルマスク群(患者と家族2人、患者との距離は問わない)、N95マスク相当のマスク(感染患者と同じ部屋にいるときにはいつも)でフィットテストなし群にランダムに分けた。研究期間において50%以下の参加者がほとんどの期間マスクを着用していたと回答し、マスク装着のコンプライアンスが課題となった。Intention to treat解析によって、有意な家族内感染患者数の低下は見られなかった。

3)医療従事者のマスク装着
 Loebら(※15)はカナダのオンタリオ州の医療従事者を対象に、サージカルマスクとN95マスクのインフルエンザの予防効果を明らかにするためにRCTを行った。446人の救急外来や小児科外来など8つの3次ケアを行う看護師が参加した。参加者は、2008年から2009年のインフルエンザシーズン中に発熱患者の対応を行う際にフィットテストをしたN95マスクの装着かサージカルマスクの装着の群に分けられた。プライマリーアウトカムの評価は、PCR検査でインフルエンザの確認とした。サージカルマスク群では50人の看護師が(23.6%)、N95マスクでは48人の看護師(22.9%)が感染し、有意な差は認められなかった。


4.マスクや手洗いに関するコンプライアンスや実施を高めるための介入に関する研究

 マスクや手洗いのコンプライアンスを高めるために様々な研究が行われており、以下に代表的なものを示した。
 Ferngら(※16)は、別のRCT施行中(6)、マスク着用のコンプライアンスが悪かったため、調査終了後に追加調査を行った。マスク着用群の特徴と予測因子を調べるために441家庭に1時間半のインタビューを行い、インフルエンザに対する危険認識スコアの算定、ロジスティック回帰分析を実施した。マスク着用群では非着用群と比べて、危険認識スコアが高く、マスク着用の有効性を認識していた。マスク着用のコンプライアンスに関連する属性、態度、知識の特徴は明らかではなかった。また、15家族の家庭訪問とグループ討議で得られた質的データから、マスク着用を規定する要因として、マスク着用が社会的に受け入れられるかどうか、快適にフィットするか、マスクの必要性の認識が特定された。
 Suessら(※17)はインフルエンザ(H1N1)2009に感染した患者(2歳以上、症状がでて2日以内に受診し迅速診断検査でインフルエンザA陽性となり、後にRT-PCRにて確定された患者)を対象に、マスクの着用や手洗いがどの程度実践されるかについてクラスターランダム比較対照試験を行った。3群は、1.サージカルマスクの装着とアルコール手指消毒剤の提供と指導、2.サージカルマスクの提供と指導、3.コントロール(特に介入なし)とした。すべての参加者には、睡眠時は患者と別の部屋に寝ること、患者と一緒にご飯を食べないなどが指導された。マスク着用群には、感染患者と一緒の部屋にいる際には夜間以外はいつも装着するように指示した。アルコール手指消毒剤は、患者と直接のコンタクトがあった際にはいつも使用するように指示した。41人のindex patient(39人は14歳以下の子供)の同居家族147人を対象とした。マスクの着用については最初の患者が発症した4日後が最もできており小児で73%、成人で65%であった。同居家族の手洗いの回数の平均は子供では6日目の7.7回、成人では5日目の10.1回が最も多かった。多くの参加者がマスクの装着は問題ないと回答した。
 Allisonら(※18)は小学生を対象にハンドジェルによる手洗いとマスクの着用を継続することができるかについて研究を行った。ハンドジェルを用いた手洗いを最初の2週間に啓発し、その後マスク着用を2週間啓発した。その後、実施状況を教師(20人)への実施についての調査と研究者による観察を行った。70%の教師は、小学生は2週間にわたって1日4回以上のハンドジェルを用いた手洗いは行っていた、しかしマスクの装着については1週目において59%の教師は着用していたと回答したが、2週目は29%の教師が着用していたと回答した。観察でも30%の生徒は1週目は着用していたが、2週目は15%であった。不快であることと、顔が見えないことでのお互いのコミュニケーションが難しいことが背景にあると考えられる。小学生においてはハンドジェルを用いた手洗いは可能であるが、マスク着用の継続率は低いといえる。しかし、教師はパンデミック中はマスクをすると回答した。


5.その他

 その他に関連する研究としては手洗いに用いる石けんなどの効果、感染患者の家における隔離、うがいがあげられた。以下にそれぞれを示す。
手洗いに用いる石けんなどの効果については、Graysonら(※19)は12人のワクチン接種をした医療従事者を対象にインフルエンザAウイルス(H1N1; A/New Caledonia/20/99)の手に付着させ、その後石けんを用いた手洗いやアルコールを含んだ消毒液による手洗いを行った後の除去される程度を評価した。石けんを用いた手洗いまたはアルコールを含んだ消毒液が人の手に付着したインフルエンザAウイルスの除去に効果的であったが、石けんを用いた手洗いが最も効果的であった。
感染患者の隔離の介入の効果に関する論文は見つけられなかった。介入研究において睡眠時や食事の際の隔離についての介入は行われていたがその実施についての研究のみであり(※17)、感染予防の効果については不明である。また、感染患者と一緒に寝ないといったこと(※17)も実施は、患者が子供の場合には難しいが、感染リスクとしては高いという報告もある(※7)。実施可能性とその効果についてはさらなる研究が必要である。
Yamadaらは(※20)、高齢者施設においてカテキンの抽出されたお茶でうがいをすることのインフルエンザ予防の効果について検証を行った。2005年の1月から3月に行われた。124人の入所者(65歳以上)が参加した。参加者は全員予防接種を2004年12月までにしていた。76人がうがいを1日3回を3ヶ月続けた。カテキンの抽出されたお茶でうがいをする群と、カテキン成分なしのうがいをする群の2群に分けた。カテキングループの方がインフルエンザの感染者は有意に少なかった。
Satomuraらは(※21)上気道炎症状の予防に関して18歳から65歳の健康成人を対象として対照群、水でうがい群、ヨードを含んだうがい液を用いた群にランダムに分けた。水でうがいをした群で有意に上気道炎症状の減少を認めた。
その後はうがいに関する研究の報告はなく、さらなる介入研究などが期待される。


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